ナナメなHIGOLOG

薬学生が日頃のアレコレや百合漫画のレビューをコソコソと書くブログです

新連載百合漫画レビュー『君と綴るうたかた』(著:ゆあま)

 

 

今回は、5月18日発売のコミック百合姫 2020年7月号』に掲載されている、ゆあま先生の新連載『君と綴るうたかた』についてレビューしていきたいと思います。

 

ゆあま先生は同じコミック百合姫において『イケメンすぎです紫葵先パイ!』を連載されていた方です。

 

今週はとにかく忙しいため記事を書く予定はありませんでしたが、こんな素晴らしい作品を読んでしまっては書かざるを得ないといった感じです。

 

⬇試し読みはこちらから⬇

comic.pixiv.net

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あらすじ

 

物語でつながる、貴女と私。

"The summer you were there"     (本誌p.4より引用)

 

 

第1節 『消えかけの私』  全49ページ(扉絵含む)

 

教室の隅の席で一人孤独に過ごしている星川雫と、その隣の席のクラスの中心的な存在の朝香夏織の二人を巡るひと夏の物語。

 

星川は日頃から小説を書くことが趣味であるが、小説投稿サイトに載せて批判的なコメントが書かかれることに恐怖を抱いている。(現状では本当にあったのか妄想か不確定)

 

そしてようやく書き終えた小説だが、星川はこの小説を捨てることで自らの存在を否定し、小説と共に命を絶とうとしていた。

 

しかし小説を捨てる現場に居合わせた朝香に小説を拾われて持って帰ってしまわれた。

 

暗い小説を読まれてしまった星川と、それを読んだ朝香との間に生まれる一つの感情。

 

 

ここから先の展開については物語の大きな部分であるため、是非とも読んで確かめてもらいたいと思います。

 

 

魅力

①星川の設定

 

星川はとにかく暗くて人間が苦手で、人から話しかけられても、善意を受けても跳ね返してしまう人間として描かれており、自分は一人でいるべきだとまで言っている。

 

そんな彼女の趣味には(恐らく百合要素のある)小説を書くことがあるが、これもまた内容が暗くて批判的なコメントを書かれることに恐怖を抱いている。(実際書かれていたのかもしくは被害妄想のようなフラッシュバックなのかはハッキリしていないが…)

 

そしてその完成した小説と共に自らの命を絶とうとしている。(これも明確に表現されているわけではない。もしかしたら暗い小説に自らの暗い感情を押し込めて封印するような意味かもしれない)

 

ここまで彼女を苦しめてきた過去とは何なのか。

彼女にとって『最初で最後の小説』に懸けた想いとは何なのか。

 

 

余談ですが、暗い性格で銀髪ボブで高身長、そして片目が前髪で隠れているのってとても良いですね。

みんなが半袖を着ている暑い夏にもかかわらず、黒タイツを履いて、カーディガンをボタンを閉めずに羽織っているのも、

外界から自分を守るために纏っているような暗さが出ていて素敵なポイントです。

星川に関してはキャラデザが本当に秀逸です。

これ以上星川に適したデザインは無いのではないだろうかと思ってしまうくらいです。

 

さらにこの星川に対して、明るく華奢な黒(茶)髪ロング低身長の朝香とのギャップに、たまらなくなるようなシーンが後半に炸裂しています。

 

 

②小説の存在

 

星川は小説を書くことで過去を払拭し、さらには小説と共に消えてしまおうとしています。

彼女は一人でいるべき理由について『二度と傷つけないため』と表現しており、ますます過去が気になってしまう描写があります。

 

過去に何か大切な人や身近な人を傷つけてしまったトラウマを抱えており、それが原因で一人でいるようになり、命を絶つ前に自分の存在を投影した小説を書こうとしたのでしょうか。

これは本当にただの一人の読者としての推測に過ぎませんが・・・。

 

しかし、この小説があったから朝香と話すきっかけが生まれた。

 

そして初めて小説を褒められることで、自分という存在を認め許してもらえたような心地を得て、涙を流してしまったのだと思います。

 

 

ここで気になってくるのは朝香の存在です。

 

授業中に助けてくれたり、ご飯を一緒に食べようと誘ってくれたりと、星川のことを気にしている朝香ですが、

ゴミ捨て場で小説を捨てようとしている星川に対してもわざわざ話しかけに行っています。

 

さらに星川の小説に対しては『やっぱり』凄いねと言っているように、あたかも前から星川(または星川の小説)のことを知っていて凄いと思っていたかのようでした。

 

1本の小説を読んだだけで星川の小説を大好きになり、そして書き続けて欲しいと心の底から思うことができるのでしょうか・・・。

 

今後の展開として、朝香と星川の出会いや、朝香の過去についても作品の鍵になってくるのだと思いました。

 

 

③心情描写の細かさ

 

どのコマも非常に丁寧に描かれていて1つ1つの言葉選びも魅力的だが、とくに印象的なのはそのコマの感情を表現する背景描写です。

 

以前、別の漫画の記事*1で私は『漫画のコマには作品の空気を作る力がある』と言ったことがありますが、この作品にもこの作品の空気と時間を感じることが出来る場面が多々あると思いました。

 

星川が小説を書き終え投稿サイトを訪れたときに襲った強烈なフラッシュバックの感情や、

朝早い時間に二人きりの教室に流れる独特な時間を、作者による巧みなコマ割りや感情描写によって繊細に感じ取ることができます。

 

そして感情表現については文字や表情で表現されているが、そのときに適したコマ割りや背景描写によって、より細かな感情表現がされていて、

読者は登場人物により感情移入しやすく没入感を得ることができる作品になっていると思いました。

 

 

最後に

 

百合姫が『巨弾新連載』と大きく出た今回の『君と綴るうたかた』ですが、第1節の読み応えや期待感は素晴らしかったです。

 

1コマ1コマ丁寧に描かれている印象を受け、冒頭1ページの3コマ最後の1ページの1コマがここから始まる壮大な物語の伏線となっていることを考えると、次の話が気になって仕方ありません。(これに関してはネタバレになるため読んで確かめてください・・・)

 

私個人の感想として、作品の今後の展開として気になる点は、

 

  • 星川が抱える過去のトラウマとは
  • 最初で最後の小説と共に命を絶つことに込められた想いとは
  • 朝香が星川に声を掛けた理由とは

 

この辺りが物語の大筋を握っているかと思いますが、

まずはこの先、星川が朝香に対してどのような感情の変化を見せていき、心を開いていくのかという点がこの作品を読んでいく上での魅力になるかと思います。

 

話の展開や伏線などから推測するに、すでに完成までのプロットのようなものは出来上がっているような印象を受けたため、

全3,4巻(全20節前後)くらいでの完結となりそうな予感がしています。

 

 

来月号の告知に本作の名前が載っており、すでに1ヶ月後が待ち遠しいです。

 

今月号は物語の始まりの第1節のみですが、49ページも描かれているためかなり読み応えがあるため、

いつもは月刊誌を買わないという方でもこの作品の始まりを見届けるために買う価値は大いにあると思います。

 

 

私は日付をまたいだ瞬間に電子書籍で購入して読みましたが、大きな紙に印刷された状態でも読みたくなるような作品だったため、

この記事を投稿してから寝て、起きたら今月号と単行本を本屋さんに買いに行こうと思います。(現在時刻3時47分)

 

 

 

 

 

 

 

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*1:他社作品で申し訳ないが『月のテネメント』の記事

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