死ぬまでに読みたい百合漫画レビュー その1『茜色のキスは屋上で』(著:百乃モト)
この漫画は百乃モト先生が描いた同人誌の再録集となっており、全6本の作品が集録されていて集録作品は以下の通りである。
①夏の導火線
②寒空に熱視線
③君主導の恋
④Drunken Night
⑤エッちゃんとマイちゃんの恋模様
⑥茜色の記憶
大半の作品が20ページ弱で完結しており、短編集のような感じで気軽に読むことができると思う。
短編集(同人誌)は話が短いからこそ、1つ1つの描画が持っている力が大きく、さらに話の間隙やその後の話を読者が楽しむことが出来るのが魅力だと思う。
ジャンルとしてはJK百合が多めとなっている。
今回の『死ぬまでに読みたい百合漫画』を紹介すると決めたとき、先ずはこの本を紹介しないと始まらないと思うくらい僕にとっては衝撃的で印象深い作品である。
百合が好きな人にも、百合って何か分からないという人にも、これから百合を探していきたいという人にも、全ての人にオススメしたい。
概要
『茜色のキスは屋上で』
著:百乃モト
発行日:2016年10月18日
発行元:一迅社
価格:852円+税
気づけば恋を、している―――
みーこのキスの相手はキヨ。
何度も伝える気持ちを
キヨはふわり、と躱してしまう。みーこの「好き」は
いつの間にか茜色の空に吸い込まれていく。
想いは募るばかり。もっと 一緒にいたい。 ずっと 一緒にいたい。
でも、キヨはどうなの?(裏表紙紹介文より引用)
上にAmazonと楽天の購入リンクを貼ろうと思ったが、新品且つ正規価格での販売が確認できなかった。
まだ4年しか経っていないがもう絶版になってしまっているのだろうか。
中古で買うより是非とも新品で手に入れて、指で紙を捲って物語を楽しんでいただきたい。
以下、同作者の漫画を2点紹介する。
↑百乃先生の百合作品で最新作は恐らくこの作品であり、原作を書いているのは橘田いずみ先生という声優の方であるが、百乃先生らしい作品の流れになっていて良いタッグが組まれていると思う。百乃先生の描く表情による感情の伝え方はより進化しているため一読の価値がある。
↑百乃先生と言ったらまず思い浮かべるのが『夕凪マーブレット』という方が多いであろう代表作。
同人誌として連載していた話だが、クオリティーは折り紙付きで商業誌にも引けを取らない内容となっている。
百乃先生の百合に対する誠実さや想いに溢れている作品であり、いつか紹介しようと思っている作品の1つ。
①夏の導火線
女子高生のメグが一目惚れしたコンビニ店員土屋を追いかける話。
コンビニ店員として働き退屈で暗い毎日を過ごし感情を忘れていた土屋の前に、毎日が花火のように光り輝いている女子高生のメグが現れ、付き合っている人がいるか聞くところから物語は始まる。
この瞬間、土屋の心の闇に花火の導火線が灯される。
その存在に土屋は気が付いていなかったが、灯された導火線誰にも止めることが出来ず、花火大会の日を迎える。
恋の始まりを花火の導火線に例え、たった14ページだが心情の変化を上手く表現されている作品となっている。
ちなみにメグと近い距離感で接する男子が登場するため、好き嫌いはあるかもしれない。
しかし、僕はこの男の存在が土屋の自分自身の気持ちを確信に変え、導火線の炎を早めるきっかけとなっていると考えているため、とても大事な表現であったと思う。
夏というのが青春の輝かしさを想起させ、メグの恋心の青さや甘さ、初々しさを感じることができ、表情の描画からもそういった部分にこだわりを感じる作品となっている。
僕が最も好きな場面はメグが土屋を花火大会に誘うシーンであり、コマ割りや台詞、表情などが非常に良く描かれている。
話の間や話し方を描画から感じ取ることができることで、二人の間のぎこちなさやメグの緊張感がリアルに伝わってくる。
②寒空に熱視線
雪が降り積もる冬、中学校までバスで1時間かかるような田舎町が舞台。
そんな町で変わり映えしない毎日を過ごしていたナオは、東京から転校してきた金髪のミホと出会う。
突然東京から田舎に転校してきた金髪の子には誰も近寄りがたい中、ナオは毎日1時間同じバスで登校している内にミホと仲良くなりたい気持ちが強まる。
しかしほとんど話しかけることができず挨拶を交わすくらいであった。
ある日ミホはナオの進路調査票を見て、高校に進学せずに東京に戻って就職することを知る。
居なくなってしまうと思うと怖くなってきてしまったのか、初めてちゃんとナオに話しかけたときに涙がどんどんこぼれ落ちてきた。
ナオは寒い雪景色の中に突然差し込んだ光であり、暖かくミホを照らしていた。
そして雪が溶け春の陽気が訪れると共にナオは田舎町を去った。
このお互いの感情が恋なのか、という点については読者に判断が委ねられているが、この指で触れてしまうと壊れて消えてしまいそうな雪の結晶のような儚い感情が、こういった百合ジャンルの見所であると思う。
イジメから逃げてきて金髪に染めて自分を守っていたナオが、再び東京に戻って就職するという逆境や障壁に抗って立ち向かっていく姿。
ナオが居なくなったこの町で1人になったミホが、遠くにいるナオのことを想いながらこれからも生きていく姿。
中学生らしい一面を見せながらも精神的な成長を描いているのがこの作品の特徴だと思う。
③君主導の恋
陸上部の久実と1個上の先輩川上の甘いすれ違いの話。
久実が川上先輩に告白したのは1ヶ月前。
突然の告白に先輩は少し困惑してしまい、久実はその場から逃げ出してしまう。
二人とも女同士の恋愛なんてどうなんだろう、と思っているが先輩はそんな好意に悪い気を感じなかったため、付き合い始めることになった。
久実は今も一方的な好意を向けていて、このままこの気持ちは一方通行で先輩から返ってくることも、気付いてもらうことも無いのかなと少し不安になるも、今は自分の好きな気持ちを信じていこうと決心する。
一方で、川上は自分に好意を向けてくれる久実のことをとても愛おしく感じていて、ずっと独り占めしたいという所有欲を隠し持っているが、ハッキリとした気持ちや言葉で好意を伝えないため、久実にはこんな気持ちは気付かれていないのだと思っている。
この作品を含め百合作品において、女子同士の恋愛なんてどうなんだろうと悩んでいるシーンが描写されるものがあるが、この表現をすることで女子同士の恋愛というマイノリティに対してリアルな感情がプラスされ、登場人物に命が吹き込まれたような親近感とリアリティーを乗せることができる。
決して非現実的な話ではない、実際に目の前で起こっている話と思ってしまうほど、作品にリアルを感じてしまう。
初めから川上に久実に対する好意があったかは明確ではないが、付き合い始めてからの感情の揺れ動きなども想像することができて非常に繊細な作品であると思った。
④Drunken Night
酔った夜に―――
婚約者が相手をしてくれないと愚痴をこぼす佑奈と、そんな佑奈に呆れながらも心配している紗代の話。
佑奈は身体の関係に精神的な依存を感じており、婚約者との関係に不安を感じている。
紗代が過去に1度佑奈と関係を持ったことがある描写があるように、2人の関係性は言わば腐れ縁のようなもの。
男性の婚約者を得た佑奈に対してそういう気持ちは一切捨てている紗代。
しかしこの酔った夜に、時を止めていた2人の関係は再び動き出す。
社会人百合のジャンルではこうした身体的な交わりを描く作品が多く好き嫌いが分かれてしまうと思うが、ベッドで2人が身体を重ねている際の描写には一際目を見張るものがある。
本当に好きな人がいるのに婚約者を作った佑奈が解放されている表情。
再び動き出してしまった時を止めることができない紗代の決意。
酔って体温が高くなっていてクーラーが効かないくらい熱い夜。
このあと2人はどんな道を歩んでいくのか。
⑤エッちゃんとマイちゃんの恋模様
中学3年生のエッちゃんと8歳上の家庭教師マイちゃんの話。
エッちゃんは昔から面倒を見てくれていたマイちゃんに特別な感情を抱いているも、マイちゃんは意にも介さず小さい子供をあやすように抱きしめてくる。
せめてもの反撃と想い、私のことを好きになるおまじないだと言い、マイちゃんの額にキスをしてみせた。
するとマイちゃんは舌を絡ませたキスをしてみせ、昔から大好きだよと言ってきた。
このキスが2人の人生を大きく変えてしまうことになる。
2年後、高校2年生になったエッちゃんのもとに離婚したマイちゃんが現れ、マイちゃんと共に寝ることとなったエッちゃんは身体を重ね、もう戻れないところまで深みに嵌まっていく。
おまじないが叶ってしまうことは果たして2人の幸せに繋がるのだろうか。
百合という関係性はいつでも壊れてしまう脆さを伴っている。
1度覚えてしまって忘れることができない蜜の味を抱えながら生きていくことの難しさ。
エッちゃんは年上のマイちゃんに終始振り回されているようだが、本当に振り回されてしまっているのはマイちゃんかもしれない。
自分の本当の気持ちを秘めることの難しさ、1度気付いてしまうと抑えることのできない感情。
そんな2人の感情の揺れ動きを味わうことができる作品となっている。
⑥茜色の記憶
「キヨはわたしにとって光だった」 (本作品114ページより引用)
病気を患っているキヨと、そのキヨのことを好きなみーこの話。
入院していて中々会うことが出来ない中、キヨは度々病院を抜け出してみーこに会いに来る。
会う度に痩せ細っていくキヨのことが心配でたまらず、病院を抜け出してまで無理しないで欲しいと思うと同時に、キヨに会えて嬉しい気持ちが入り交じるみーこ。
最後の別れに屋上に行き茜色の夕日をバックにキスをして、天国へと旅立ってしまった。
そして後日、キヨはやり残したことを伝えにみーこの目の前に現れる。
漫画の表題作となっているこの作品は32ページと他の作品と比べて少し長いが、読後感は壮大な漫画1冊を読み終わった後に近い。
この作品を読んだとき初めて百合漫画で涙を流し、その日は中々眠りにつくことが出来ず、次の日もこの作品のことを考えてしまい何度も何度も読み返したのを覚えている。
大切な人を失ってしまう怖さ。
大切な人といつまでも一緒に居たい。
大切な人を失ってからの孤独さ。
大切な人を悲しませたくない。
大切な人の気持ちに応えたくても応えられない。
大切な人と一生会うことができない悲しみ。
大切な人を失ってしまう展開は漫画には王道かもしれないが、百合というフィルターを通すと「儚さ」が強調されていて、心に襲いかかる喪失感がとても大きい。
大切な人の気持ちに応えられず悲しませてしまったキヨと、大切な人を失ってしまったみーこのそれぞれが選択した道を見届けて欲しい。
「こんなわがままなキスしてごめん」(本作品137ページより引用)
まとめ
百合は儚い。
これは僕の座右の銘のようなものである。
この漫画は前半3作は甘く酸っぱい青春の1ページを味わうことができるが、後半3作はとにかく切ない。そして何より儚い。
特に表題作である『茜色の記憶』に関してはページ数こそ他の百合漫画より格段に少ないが、不朽の名作と言わざるを得ない完成度の高さがある。
百合の儚さが好きだ、という方には是非ともオススメしたい作品となっている。
『茜色のキスは屋上で』
著:百乃モト
発行日:2016年10月18日
発行元:一迅社
価格:852円+税
雑談
百合は5~8月に花を咲かせ、その後花は落ち球根は寒い冬を越す。
百合の花が咲く季節を舞台にした百合の作品も素敵だが、冬に気持ちをどんどん膨らませつつもそれを抑えている百合はなおさら。
何が言いたいのかわからないいつもの展開で終わるのも後味が悪いが、現在その2も鋭意作成中なので乞うご期待ください。待ってる人なんていないと思うが・・・
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