『あの娘にキスと白百合を』名言集&解説レビュー 第5巻
※この記事の内容は2019年5月に発行された『あの娘にキスと合同誌を』にて、私が寄稿した『「あの娘にキスと白百合を」各話を名言で振り返る』に加筆修正を加えた内容です。
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これから1巻ずつ『あの娘にキスと白百合を』の好きな部分を語らせていただきたいと思います。私がこの作品に魅力を感じている要素の一つに『言葉』があります。
そこで、この度は作品の完結記念といたしまして、私の主観と偏見で選ばせていただいた本編各話の名言について軽い考察や回想を交えること共に、各巻巻頭に寄せられた言葉や各話の題名にも触れながら、缶乃先生が作り上げた『あの娘にキスと白百合を』という作品を振り返っていき、改めてその魅力を再認識していきたいと思います。
『あの娘にキスと白百合を』をまだ読んだことがないという方には少しネタバレになってしまうかもしれないためご注意ください。
全巻読んだことがあるという方も、手元に用意して一緒に振り返りながら読み返していくことで、新たな発見することの手助けになれたら幸いです。
第5巻
Love is to be made all of sighs and tears
『恋は、ため息と涙でできているもの。』
(第5巻1頁より)
こちらの言葉は、四大悲劇で有名なイングランドの劇作家ウィリアム・シェイクスピア(William Shakespeare)による恋愛喜劇『お気に召すまま』(原題:As You Like It)から引用されているものです。
この作品の第2幕第5場において、Phoebeの台詞"Good shepherd, tell this youth what 'tis to love."という投げかけに対して、羊飼いである Silviusが答えた"It is to be all made of sighs and tears, And so am I for Phoebe."(原文)という台詞によるものでした。
恋や愛には、喜びや笑いといった一面もあれば、相手を想うが故の心の落ち込みや涙を流す一面もある。そんな叶わない想いを言葉に表した台詞でありました。
第5巻では叶わない恋という面よりは、恋をしている心の弱さ故のため息や涙といった部分から見ていくと、この巻頭に寄せられた言葉の真意というものを見ることができるかもしれません。
第21話 『白峰あやか失踪事件』
西河「桃の味がする 昔ふざけてふたりでしたよね」
(第5巻21話33頁)
題名の通り1学期の終業式に学校を欠席した白峰の話について、新聞部の2年生伊東紗和(いとうさわ)と1年生の西河(にしかわ)いつきが記事にしようとする話です。
新聞部の2人は近所の幼馴染みでありましたが、そのことを伊東は思い出すことができませんでした。
この言葉は、そんな伊東への抑えていた気持ちが爆発した西河が突然伊東の唇を奪い言ったものです。
幼い時に交わしたキスと、大人になりつつある高校生で交わしたキスの味は、果たして同じものであったのでしょうか。
当時と今ではお互いの想いは同じでしょうか。
そんな10年越しの想いを胸にしている西河と、忘れてしまっていた伊東との気持ちのすれ違いから目が離せなくなる回でした。
第22話 『遠いブルーを見るだろう』
黒沢「・・・乗っちゃった」
(第5巻22話66頁)
時は遡って1学期末へ。
1番でなくてはならないという白峰の思いが少しずつ変わり始めた白峰だが、そこで白峰の母から電話で叱責を受けてしまった。
母親からの愛を受けながらその期待に応えられない自分の弱さ。自分は一番でなくてはならないのに結果を阻む黒沢という障壁。
自分が欲しいと思っていることは1番であることではないのではという疑心。
そんな葛藤から自分の存在が何なのかわからなくなってしまった白峰は終業式へ出席せずに1人で海へ向かった。
その道中のプラットホームで白峰は黒沢に、勝つことを諦めた私のことは必要ないし放っておいてと言われるも、電車のドアが閉まりかけているところに飛び乗って、先の言葉を放った。
その言葉を発した黒沢自身も驚いている表情をしたのがとても印象的であったため、今回の名言に選出させていただきました。
今回の題名が好きであるという方は、あのキス好きの中では多いのではないでしょうか。
題名について考察をして意見を述べようと思ったのですが上手くまとまらず、缶乃先生が表現したいものが何なのか私には深く理解することができなかったため、中途半端な意見にならないようにこの場では控えさせていただきます。
第23話 『One Night Journey』
黒沢「みんな白峰さんが好きだよ ・・・あたしが何を言っても意味ないか 嬉しくもなんともないかもしれないけど その気持ちも少し・・・ 信じてくれたらうれしい」
(第5巻23話86~87頁)
黒沢は白峰から詳しい事情や経緯は何も聞かずに、ずっと白峰のそばに寄り添ってただただ話を聞くことに徹していました。
そこには、今まで見ることができなかった黒沢という人間の内面的な成長を感じました。
白峰の「・・・私 海が見たかったわけじゃない」(第5巻23話81頁)という言葉には白峰の心情が強く表されており、階段に座ったままの白峰と靴を脱いで海へと歩き出す黒沢の描写の対比は、画としての芸術性の高さを感じる場面でもありました。
この回は、黒沢と白峰の一挙一動に目が離せない場面が数多く存在しており、名言と言える言葉も多数ありましたが、その中でも黒沢の聡明な言葉選びと優しさ、愛情が良く伝わってくるこの言葉を選ばせていただきました。
第24話 『翼のあと』
西河「忘れないでとなりにいてくれれば それで十分だよ」
(第5巻24話128頁)
お互いが幼いときに交わした夢について、形は変わったと言え共に夢に向かって歩みを進め始めた2人。
そんな中、西河が伊東へ放った言葉。再会したときの状況への冗談を交えながら、今までの孤独や寂しさ、悲しさを感じる言葉でもあり、伊東に対する愛の表現と今の瞬間に感謝しているようにも感じ取れる、西河の複雑な心情が表されている言葉であったことから、今回はこの言葉を選ばせていただきました。
西河について缶乃先生は後書き(第5巻181頁)で、重い女・情緒が不安定・めんどくさいの三点を挙げていましたが、そこまで重く暗い話になっていないのは、西河のチョロさもあるかと思いますが、伊東の無意識イケメンなところもこの話の良い部分であったと思います。
第25話 『エンドロール前夜』
西河「でも・・・どんな人より私のほうがさーちゃんのこと大好きだよ 私も・・・さーちゃんにとって他の誰より一番かわいい後輩だよね? 他のどんな人より特別だよね? 聞かせてほしいな 私が一番だって」
(第5巻25話139頁)伊東「あたしいつきのこと好きなんだな・・・ 同じものを見て楽しいものを楽しいって キレイなものをキレイだって 思ってる気持ちをまぜあわせたら気持ちいいだろうなーって・・・ 他の誰かじゃなくていつきがいい 十年分いつきとしたい」
(第5巻25話158~159頁)
伊東のことが大好きで仕方ない西河と、自分の気持ちに整理が付いていなくて西河の想いへの応え方がわからない伊東。
そんな西河は自分だけが好きであるという現実に不安を抱くようになり、伊東からの言葉と行動を求めてしまい、それが返って伊東へ重くのしかかってしまいました。
百合の原点である「この気持ちってなんだろう」的なお約束な展開ではありますが、この2人では少し重く感じてしまうお話となってしまったかもしれません。
しかし、やはりこんな重い話でも伊東の無意識なイケメンさに救われるのでありました。
伊東の心情を綴った「かわいいないつきは このかわいさはきっと あたし以外誰も 知らない」(第5巻25話155頁)という言葉から、伊東が出した結論である言葉のストレートな気持ちは今作の中でもかなり印象深い言葉となりました。
こちらの言葉も西河を苦悩から解放した名言として選出させていただきました。
↓第6巻の記事こちらから↓(順次公開予定)
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