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新作百合漫画レビュー・感想『あなたと私の周波数』(著:くわばらたもつ)

 

 

 

概要

 

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『あなたと私の周波数』
著:くわばらたもつ
発行日:2020年6月1日
発行元:一迅社
価格:852円+税

 

あなたと私の周波数 (百合姫コミックス)

あなたと私の周波数 (百合姫コミックス)

 

 

 女と女の鮮烈な感情を切り取った、

あなたの心に熱を与える短編集。

(裏表紙紹介文より引用)

 

この漫画はくわばらたもつ先生(Twitter)がコミック百合姫で描いた読み切りをまとめた短編集となっており、1本を含めて全5本の作品が集録されていて集録作品は以下の通りである。

 

 

①あなたと私の周波数(初出:百合姫2020年4月号)


②お前に聴かせたい歌がある(初出:百合姫2019年12月号)


③あんたが背中を見せたから(初出:百合姫2020年2月号)


④君のすべて(初出:百合姫2019年4月号)


⑤私たちの長すぎる夜(描き下ろし)

 

 
以前にも話したことがあるが、短編集は話が短いからこそ1つ1つの描写が持っている力が非常に大きく、登場人物への感情移入や背景設定をより強く感じることが出来るのが魅力だと思う。

 

そして作者のくわばら先生はこの短編の読み切り作品を描くのが非常に上手い。

この漫画は全体的に百合要素は薄く人間の『感情』に重きを置いた作品が多いため、今まで百合というものに触れてこなかった方にとっても、本当にオススメしたい漫画となっている。

 

 

 

①あなたと私の周波数

 

表題作であるこちらの作品は、会社に勤めながらも人間関係の希薄さにうんざりしている新見と、同期で周りの人から八方美人と称されている荒田の社会人百合の話。

 

人間関係が上手くいっているように見えていた荒田も、常に上手くいっているわけではなく、その溜まった鬱憤を誰にも繋がっていないトランシーバーに向かって吐き出していた。

 

そしてその愚痴の電波を受信しているトランシーバーを偶然手に入れた新見は、荒田が実際にトランシーバーに向かって愚痴を吐いている現場に遭遇する。

 

 

人間関係に疲れてそこから一歩引いて見てみると、上っ面だけの薄い関係に居心地の悪さを感じることと共に、

周りの人はどうしてこんなに円滑な人間関係を築くことができているのだろうかと、自分の積極性の無さを責めてしまうことはよくあることだと思う。

 

私も初対面の人とグループワークをするようなときに、愛想笑いでその場を取り繕って波風立てずにいるのをふとしたときに客観視してしまうが、

自分はこんな希薄で面倒くさいことをしているのかと、自己嫌悪に陥るようなことがよくある。

 

そこで自分との比較対象にしてしまったのが荒田であったが、そんな荒田も陰では愚痴をこぼしていて人間関係が嫌気が差していることを知った新見。

 

人間関係の難しさ』は誰もが人生で一度は悩むことだと思うが、いつも笑顔で取り繕っているような人も、

いつも怒ってくるような上司も、所詮自分と同じような人間であることを理解すれば、みんな同じようなことで悩んでいる仲間だと気づくことができる。

 

この作品は『人間関係の難しさ』や『希薄で表面上の関係に嫌気が差す』ような経験をしたことがある方なら、誰かに自分を当てはめることで、

その問題の本質に少しでも近付くことができるような、読む人によって感想が分かれる非常に文学的で考えさせられるような内容であると思った。

 

 

 

②お前に聴かせたい歌がある

 

この作品は読み継がれるべき”名作”である。

これだけはしっかりと断言できる。

『くわばらたもつ』という作家の恐ろしさを感じる作品である。

百合という枠組みの中でたったの32ページで、これだけ人の心に響く作品があるのだと衝撃を受けた。

 

あらすじもテーマも省いてとにかく僕の抱いた感想を述べていこうと思う。

この作品にテーマなんてものを付けてグループ化するのは、くわばら先生に対して失礼だと思ってしまうほどの傑作だと感じた。

 

まず、冒頭で提示される『いっしょに私の死体を埋めに行こう』という言葉。

『私の死体』と言っていた袋の中身は、ふみの好物の飴とお菓子、私物のベースとCD、そしてスマホだった。

 

恐らく今までの自分との決別の意味で、今の自分を構成している物を『死体』と称して埋めに行ったのだと思うが、

では何故捨てようと思ったのか、どうしてやよと共に捨てることを選んだのか。

ここは考察などというのは無粋なことであり、読者にはそれぞれの想像をする猶予が与えられている。

ふみにとってはやよはどういう存在であったのか。

 

そして、やよが居心地の良かった今までの自分の場所を捨てて、再び曲を書き始めるシーンで終わる。

この最後の1ページでページ丸ごと使ったコマは非常に芸術的な作品になっている。

この32ページ最後の1枚絵を見るためだけでもこの漫画を買う価値は大いにあると思う。

 

これからやよは新しい人生に向けて自らの手で曲を書き上げていく。

出来上がった曲をふみに聴かせることはできるのだろうか。

 

この作品を読んで少なからず心を動かされると思うが、それは人それぞれ異なったものだと思う。

 

作品を通して2人の感情・行動について、作者から明確な答えは与えられていない。

 

この答えの出し具合は作者の腕の見せ所で、答えを出さなすぎても読み終わったとき読者は『何だったんだこの作品は?』と疑問だらけになる。

しかし、答えを与えすぎてもストーリーが良ければ素晴らしい物になるが、そうではない場合には読者はただ作品を受け身で感じ取るだけで、

読者に対して考える余地を与えることができず、心に響くような作品は生まれない。

 

いつの時代においても人の心を動かすことができる作品は間違いなく”名作”である。

 

 

 

③あんたが背中を見せたから

 

「負けたくない」だけじゃない。

この気持ちを追いかけたい。

(百合姫2019年2月号扉絵より引用)

 

中学陸上部で勝ち気なエース風間と、転校してきた人を争いたくない吹谷の話。

 

中学という未熟で未完成な生徒同士だからこそリアリティーのある関係のいざこざに、陸上部で速さを競い合うだけじゃない関係性に百合を感じることができる素晴らしい作品となっていた。

その未熟な心の成長も感じることが出来る爽やかな百合作品になっていると思う。

 

前2作品が社会人百合で難しいテーマを扱っており、こういった中学生の未完成な百合が出てくるため、

くわばら先生の描くことが出来る百合の広さに驚きを隠せないと思う。

そして、この作品は読み終わると長い作品を読んだような濃い読後感に襲われるが、たったの30ページである。

 

この30ページにこれほどのストーリーとテーマを持たせて描くことができるのは、くわばら先生の読み切り作品の魅力だと思う。

 

 

 

④君のすべて

 

お弁当さんで働く高校生のひばりと、そこへ通う中学生のマキの話。

 

初めのうちは弁当屋さんの店員と客という離れた存在でったが、お互いの心は少しずつ近付いていくような甘い青春物語のように思われていたが、

小さい頃に離婚したひばりの父の死を境に運命が大きく変わってしまう。

 

ひばりの実の父の死と共に、マキの父も同じくして亡くなっていた。

 

身近な人の死というものを実際に感じることで、マキとひばりはお互いに失いたくない大事な存在であることに気が付いた。

 

若い百合という関係性には非常に儚く、脆さを感じることができ、人の死というテーマとの親和性が高く相乗効果が生まれているような感じがした。

 

物語の最後5ページには今までの甘い展開を全てひっくり返してしまう、読むのが苦しく涙してしまうようなシーンが読者を待ち受けている。

読んでいく内に最悪のケースを感じ、「まさかな」と思っていた読者も多いと思うが、いざその「まさかな」が現実となってしまった。

 

そしてこの作品には2人の関係の結末が描かれていない。

読者に委ねて想像の余地が残されている。

 

ひばりは真実に気が付きながらもマキに隠したまま関係を続けるのか。

高校卒業と共に遠い場所に移り住み、マキの存在を忘れようとするのか。

マキに真実を伝えてしまうのか。

 

この読後の想像もこの作品の物語の魅力だと思う。 

これを続編としてもう1本単話として描いてしまうとそれはこの作品の良さが潰れてしまう。

 

 

 

⑤私たちの長すぎる夜

 

単行本に描き下ろしとなっている作品。

この作品も非常にクオリティーが高く、この作品のために単行本を買う価値は十分にある。

 

関係性やストーリーを説明してしまうと、初めて読んだときの感動が薄れてしまうためこの作品では省くが、

社会人となってしまった2人の再会を含んだ遅めの青春物語と言うのが最適だと思う。

 

この作品も最後6ページで読者を驚かせる展開を待ち受けており、この最後の展開が本当に素晴らしく、

物語に甘い青春を感じさせ、登場人物の未来に光をもたらしている。

 

 

 

 

まとめ

 

この漫画を読んでまず感じるのが、作者の『漫画』を描く能力が非常に高いという点である。

 

商業誌に載っている漫画家なのだから当然だと思われるかもれないが、漫画を構成している『絵』『コマ』『ストーリー』の3つのそれぞれが非常に高い水準で描かれている。

 

どの作品もただ読むだけでは終わらない、読んだ後に心の中に感じるものが必ず残っていると思う。

何かを感じさせて考えさせ、読者の心を動かすことができる。

その心を動かしたのはただの紙と絵だというなら、それは漫画ではなくもはや『芸術』と言えるのではないのだろうか。

 

編集担当の方も売り文句に仰っていた『とにかく人の感情に触れたいという方』にオススメしたい漫画だと思う。

 

 

あなたと私の周波数 (百合姫コミックス)

あなたと私の周波数 (百合姫コミックス)

 

 

 

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